講演会「痴呆性高齢者の接し方
−痴呆性高齢者への理解を深めながら−

日:2004/7/4
場所:憩いの家
講師:久保川 真由美
(高崎健康福祉大学短期大学部看護学科
老年看護学(在宅看護論) 助教授)
1.痴呆を起こす疾患
1-1. アルツハイマー
1-2. 脳血管障害(脳梗塞、脳出血など)
1-3. ピック病、ヤコブ病など
2.痴呆の症状
主症状(中核症状) 記憶障害(失認、失行)
見当識障害
理解判断力障害
計算障害
周辺症状 随伴精神症状 自発性の低下・抑うつ
易怒・興奮・攻撃・感情の易変化
不眠・夜間せん妄
幻覚・妄想
行動障害 徘徊
失禁・弄便
食行動の異常
暴力・性的逸脱
繰り返し・保続
人格の変化 病前性格の先鋭化
感情の平板化・表出の貧困化・想像力の低下
対人関係の順応性の低下
  *症状の表れかたは、個々人により大きな違いがある。
*高齢者の置かれた状況の影響を強く受ける。
*痴呆は、より高度な機能からまず障害される。
*痴呆の進展具合によって表れる症状が違う。
*痴呆が重度になると、妄想がなくなる、など。
3.症状と痴呆性高齢者の気持ち
<主症状>
3-1. 知的機能・認知機能の障害
・同じことばかり聞く、置いた場所を忘れて大騒ぎになる、繰り返し同じものを買ってくる、「そんなことを言った覚えはない」と怒るなど
⇒作話、ものとられ妄想
⇒痴呆性高齢者は“点”の上に生きている
 3-2. 時間・場所・人物の見当識障害
・今日は何日か、今、何時かを間違える、道を間違えて帰ってこられない、家にいても「帰る」
⇒迷子(徘徊)
 3-3. 理解判断力の障害、計算力の障害
    ・金銭への異常なこだわり、職場で仕事が出来なくなる、日常的な道具を使うのに混乱がある、着衣の間違いを繰り返す、戸締まりを繰り返す、状況にそぐわない言動、簡単な計算が出来ずつり銭がわからない
日常的な習慣としている行動や判断は保持される。
残存機能がある。
困っていること、苦しんでいること(自分の意思)をうまく相手に伝えられない。
<随伴精神症状>  #高齢者の気持ちや背景
 1. 自発性の低下、抑うつ
# ぼけたのではないかという不安、何もさせてもらえないという喪失感
⇒自殺に発展する可能性もある
 2. 怒りやすい、興奮しやすい、感情が変化しやすい
・唐突な行動として出やすく、一過性であることも多い。
・疲労、運動不足、身体疾患があると起きやすい。
# 苦痛などを適切な表現で訴えることに障害がある。
# 援助との関連
 3. 不眠・夜間せん妄 
・夜間に興奮状態、夕暮れ症候群 
# 昼間の生活との関連、夜の不安、不眠の苦痛を訴えられない
 4. 幻覚・妄想
・幻視は人物が多い、幻聴は身近な人が「悪口を言っている」、妄想はものとられ妄想や嫉妬妄想
# 生きていることへの不安、痴呆以前の感情、思考の障害
<行動障害>
 1.徘徊(うろつきまわること)
・自宅から出て行く、外出先で迷う、自分から混乱を訴えない、繰り返し起こる
# ここがどこだかわからない、「誰々がいない」と探す、何かをしなくてはと用件を思いつく、いごごちが悪い
⇒事故に発展する恐れがある
 2.失禁・弄便
 3.異食
 4.暴力・性的逸脱
 <人格の障害>
⇒全人的障害としてとらえられてしまう
 1. 病前性格の先鋭化
・もともと気が短い人がもっと短くなる
 2. 病的性格の出現
 3. 感情の平板化や想像力の低下
・几帳面な人がずぼらになるなど「その人らしさ」の喪失
4.痴呆になっても失われにくい(保持される)機能
 4-1.感情
・理解力・判断力が低下するため会話によるコミュニケーションは難しくなるが、感情には敏感に感じる傾向がある。
 4-2.自尊心
・痴呆があっても、大人としての、今まで生きてきた実績−プライドはいつまでも持ち続けている
* 年齢逆行について−子供がえりはしない。痴呆が進行すると年齢を実際より若く答えることがあるが、これは自分が一番輝いていた時といわれる。
 4-3.日常的に使っている動作、長い間行っていた役割、愛着がある行動
5.痴呆性高齢者のケア(接し方を中心に)
 5-1. 自尊心を尊重したケアを
5-2. 生きるための基本的ニーズ(食、排泄、衣生活、清潔など)を充たす
5-3. 予測できる危険から守る
5-4. 痴呆性高齢者の接し方
原則 精神的安定を図る
1) なじみの関係をつくる
2) ペースにあわす
3) 説得より「共感」
4) 感情に働きかける
*残存機能
5) 高齢者の「今」 高齢者の「世界」で
*痴呆性高齢者は「点」の上に生きている
*残存機能
・ご飯を食べていない→今、したくしていますのでお待ちください
・家が違うとバスを降りない→終点ですよ
・家に帰ると言ってきかない→雪が降っていて外にでられません
6)“自分が”“自分の”“自分を”という人格感をいつも持たせる
7)情報は、その高齢者の世界で、簡潔に、納得のいくように
8)失敗行動を意識づけない−叱らない、傷つけない
・失禁を隠す→隠す行為を尊重して
・穴掘り、穴ふさぎ→穴をふさく゛
9)ものとられ妄想などは、「とられてつらい」気持ちを考え、「つらい気持ち」に対応する
・一緒に探す、あってよかったね
10)徘徊などで、出かけようとする時、無理にひきとめようとすると逆効果。一緒に出かけてみる、場面転換を図る、いつも視野に入れておくなど
・雪が降っているよ
 5-5. 残存機能に働きかけ、現実を強化する 
・精神のリハビリ(回想法、24時間現実見当識訓練、グループホームでの日常生活動作のリハビリなど)
 5-6. 寝込ませない
朝日新聞H9年7月24日版 「痴呆理解されぬ悲しみ」
朝日新聞H9年9月19日版 「母の詩集 黙々と生きそして老いた」